─ 公社さんもいろんなご事業、いろんなご支援をなされていると思いますが、その中で清水さんの部署では、何を中心になさっていますか?
清水:私の部署は、経営戦略課というところで、サービス開発やデータ利活用など新たな取組に対する支援を行っているところになります。その中で、事業可能性評価事業という、新規事業に取り組む企業、新しいことに挑戦する企業さんの事業計画を評価させていただき、事業が軌道に乗るように、担当マネージャーが継続的に支援するということをメインにやっています。
─ 清水さんはそこでどのような業務をされておられるのですか? 事業可能性評価事業の内容についてもお聞かせください。
清水:事業可能性評価事業では、随時企業さんの申し込みを受け付けています。
いろいろな企業さんが集まる場所でこの事業を宣伝したり、銀行や信金、他の支援団体から「こんなお客さんがいるんだけど」という紹介をいただいて、事業可能性評価事業をご案内したり、企業さんが抱える課題を聞きながら、それに合うような公社の支援メニューをご提案するということを主にやっています。
事業可能性評価というのは、新規事業に取り組む企業さんの事業計画を評価することです。
と言っても、その商品や製品の良し悪しを評価するのではなく、ビジネスとしてきちんと成り立つものなのか、という視点で中立性・客観性をもってしっかり評価をさせていただいています。
また、そういった部分を評価するだけではなくて、その後、継続的に事業が軌道に乗って成長していくところまでずっと一貫して支援していく、というのが私たちの事業になります。
─ 最近の傾向としては、どういう企業が集まっているんでしょうか?
清水:最近は、IT系が8割近くになりましたね。昔は逆で、モノづくり企業が多かったのですが。
─ ITが8割?それはなぜなのでしょう?
清水:恐らく、企業の母数としても、ものづくりの企業さんよりもIT企業の方が増えているんです。 あとは、新しい事業に取り組むとなると、やはりIoTやAI、クラウドサービスなど、最近はそういったITに関連するサービスが増えてきているので、何か新しいことをやろうとする時には、ITと紐付けて新規事業をやる、みたいな方が多いからかなと思います。
─ 公社さんとしては、ITに偏るのはちょっと…という思いもあるのでしょうか?
清水:我々は、どの業種を支援したいといったことは全くありませんし、特定の業種しか受け付けていないということもありません。
ただ…我々は、元々はものづくりの企業さんを支援する団体でしたので、今、ものづくり業界が減ってきてしまっているというのは、ちょっと寂しい部分もありつつ…。
時代の流れとしては、ITや先端技術を使ったものが今後は更に重要になってくると思うので、ITに取り組む企業さんの支援をもっとできるように、バックアップ体制なども整えていくことは重要だと思っています。
─ 清水さんから見て、それぞれのご専門家の方はどういう方たちですか?
清水:今、全体でマネージャーが10人ぐらいいます。
いろんな民間企業出身の方たちなので、全員バックグラウンドが別々なんです。
文系の方もいれば理系の方もいて、技術系に強い方もいれば営業に強い方もいたり。
ですので、どんな企業さんが来ても対応できるようなメンバーが揃っているな、と思っています。
─ ここにいらっしゃる3名の方は、どのような方々なのですか? 清水さんから見た皆さんを、1人1人ご紹介いただけますでしょうか?
清水:森田さんは、とても面倒見がいい方ですね。 申し込んだ企業さんの約3分の2ほどは、委員会での評価ではなくて、事前評価という形になるのですが、1度事前評価をされると、もうそこで申し込みは終了するという流れになるんです。
─ それは、どういうことなのでしょうか?
清水:事前評価というのは、委員会に上がってくる前の評価になります。申し込みの約7割、8割の方が事前評価になっておりまして、申し込んで、事前評価をして、事業の課題などをレポートでお送りして終了する、というものになります。
森田:事前評価で「ビジネスプランをもう少し磨き直してくださいね」とお伝えするんです。
─ なるほど、難しいですね。ビジネスプランを磨き直していただきたい会社が3分の2ほどあり、その事前評価が一次評価になるということなのですね。
清水:そうです。3分の2の企業さんが、面談してレポートをお渡しして事前評価という形で終わり、残りの3分の1の企業さんが委員会に進んで委員会で評価される、と。この2パターンがあるんです。
─ 「森田さんは面倒見がいい」というのはどういう意味なのでしょうか?
清水:事前評価となった方には、事前評価報告書という形で、「もっとターゲットを明確にしましょう」、「差別化しましょう」とか、「収支計画がこれだと採算が合わないのでプライシングを見直してください」とか、そういう課題を2,3枚のレポートでお渡ししているんです。
企業さんは、それを受け取っていろいろ検討されると思うんですが、森田さんは、その後もその企業さんたちと連絡を取っていることが多いんですよね。
─ 通常は、連絡を取り続けないものなのですか?
清水:そうですね。通常申し込みに対してはそこで終了し、一旦クローズとなりますので。
森田:本来、連絡を取り続ける義務は無いんですが、やっぱりうちとしても、なるべく多くの方に委員会に進んでもらいたい、という思いがあるんです。
清水達が、金融機関やいろんな団体を回って企業を発掘してきてくれるので、僕は過去の繋がりという中で、「あの企業さんは、もうちょっと顧客開拓のところを頑張ったら…」ということもあるので。
「この事業は面白い」などレポートで書いて、足りない点がある企業さんにはなんとか頑張ってほしいので、それをレポートにして…ひと月ふた月したら「どうですか、その後の形は?」と連絡をさせてもらっている感じです。
─ つまり、サポートという側面もあるし、今後事業可能性評価を改めて受けていただく、という営業活動のような意味合いもあるということですね?
森田:そうですね。
─ それはいいですね、企業さんにとっても。皆さんは、もともと何をされていた方々なのですか?
森田:僕は技術者です。もう今はすっかりいないと思いますが、アナログの電気回路の技術者でした。会社に入って10年で労働組合の専従役員を8年やり、復職した時は工場の中の管理部門、事業管理の部門に配属されました。そんなことをやっているうちに会社がおかしくなったので、希望退職して現在に至ります。
─ 事業可能性評価事業がお付き合いする相手として、どういう会社が一番好きとか、やりやすいといったことはありますか?
森田:どうでしょうね…。どういう会社がいいとか好きかというのは、考えたことがないです。
これは好き嫌いとは異なりますが、IT関連はこちらもそれだけベーシックの知識を入れる必要があるので、トレンドの情報収集や競合分析に苦労しますよね。
「この事業を申し込んでよかったな」と思ってもらうには、事前評価でお返しするにしても、レポート内容をしっかり書かなくてはいけないですし、委員会に持っていきましょう、という場合には、今度は事業計画をしっかり作ってあげなきゃいけないですから。
そのためには、やっぱり、「その事業がなんなのか」ということを知らなくてはいけないですし、深いところまでは理解できないとしても、「何書いてあるのか分からないや」では済まされないので。
清水:森田さんは聞き上手でもあるので、女性の起業家の方からの信頼も厚いですね。
森田:一時期、女性の経営者が重なった時がありましたね。
─ 女性の経営者の方もよくいらっしゃるのですか?
宮部:全体の2、3割ぐらいじゃないでしょうか?
清水:マネージャーという立場で支援するには、営業ができるというよりも、相手からいろいろな話を引き出せるような人の方が重要なんです。
どちらかと言うと、男性よりも女性の方が、感性というか直感的な部分をお持ちの方が多いのかなと思うんですが、森田さんの場合、「この人はちょっと嫌」という風には取られにくいんですよね。
多分、話が伝わりやすいとか、話しやすいとか、聞いてくれる、という印象をすごく相手に与えているからなんだと思うんです。
─ お隣の宮部さんは、どのような方ですか?
清水:宮部さんは統括マネージャーといって、森田さんや他のマネージャーさんを束ねる立場にいる方です。
宮部:いやいや、野球部のマネージャーみたいな感じで、偉いわけではないですよ。
清水:そして、本当に優しい人ですね。
マネージャーさん達はそれぞれみんなプロの方で、そういった方を取りまとめる立場にいるのですが、例えば先ほどの事前評価報告書も、統括マネージャーがチェックした上で企業さんに送るんです。
企業さんの事業内容によっては、そのレポートに「もっとこうした方がいいんじゃないか、ああした方がいいんじゃないか」と、中で議論になることも多いので、中で意見が割れたりする時に間に入って調整してくれる統括マネージャーは、板挟みになって結構大変だと思うんですけど、嫌な顔せずにやってくれる。
マネージャーさんのフォロー、育成という部分だけではなく、そういった調整を宮部さんが行なってくれるんです。
─ 企業の評価に対して、一番気を使っている部分はどのような点になりますか?
宮部:やっぱり、「公平に評価できているかどうか」、ということだと思います。
企業の評価をするにあたって、実際に直接担当の企業をもつマネージャーだけでも7~10人ほどになるのですが、当然、評価のばらつきがゼロではないので、例えば「事前評価にするのか、そうではないのか」といった時に偏った形にならないようにする、ということを基本にしています。
あるいは、事前評価の企業さんほど報告書自体に気を使いますので、その表現がしっかりと伝わる内容になっているかどうか気を付けていますね。
委員会に来る企業さんは、その途中でいろいろと議論もしますし、その中で事業計画も一緒にまとめ上げていきますので、その後のフォローもいくらでもできるんですが。
事前評価の場合は、どうしてもそこで1回完結しますので、その3ページなり4ページなりの報告書が、企業さんに伝わる最終手段になってしまうんです。
ですので、その内容や表現などは気を付けるようにしています。
─ 意見の相違、議論に発展するということは、よくあることなのでしょうか?
宮部:そんなに大きな議論になることは、滅多にはないですが、どちらかと言うと、事前評価をされた後の報告書の内容の方が議論になります。 あとは委員会に上がってくる場合も…。
清水:委員会も時々割れますね。
─ 「割れる」とはどういう意味ですか?
宮部:絶対評価ですので、数でということではないのですが、絶対評価の上で委員会で評価するかどうか、という部分で意見が割れることもあるんです。
─ 委員会に上げるかどうか、で意見が分かれることもあるのですね。
清水:委員会に上がった中でも、事業計画を見て「この通りにいけそうだ」と思う企業さんと、「ちょっと危ないんじゃないか」と思う企業さんもいらっしゃるんです。
宮部:すんなり通る企業さんももちろん多いんですけども、「どうしようか…」と、特にギリギリの評価の時は結構議論しますね。
─ やはり、その着眼点はあくまでも「その事業が成功するか否か」という部分になるのですね?
宮部:はい。要するに、今の状態でかなり荒い計画もあれば、すごく綿密でしかも可能性がある場合もあるんですが、意見が割れる時というのは、「じゃあこれを、更に担当のマネージャーを中心にこの後フォローアップを3年、4年していった時に、本当に立ち上がれるのかどうか」と。
逆に、このままの延長線上でやっていくことは、かえって企業に時間や費用を浪費させることになってしまうのではないか…と。
当然、銀行さんはそういったところももっと厳しくやっていますけど、企業さんの可能性を見極めるというところで、我々は、なんとか事業を立ち上げて大きくするというところでやっています。
─ 事業を立ち上げる。
宮部:そうです。
ゼロイチの時もあれば、イチジュウのこともありますが。
そこでどういう風に企業を発進させてあげられるか、そのお手伝いができるか。
逆に、手伝っても浪費に終わってしまう可能性の方が高かったならば、ビジネスプラン全体をこの委員会でもう一回ブラッシュアップしましょう、ということをしています。
今あるビジネスプランの延長線上でブラッシュアップするのではなく、例えば、ターゲティングや、あるいは商品の市場なのか…の部分をもう一回じっくり考えた方がいいんじゃないかという場合は、年に何社か委員会で「可能性がちょっと低い」という判断せざるを得ないこともあるんですけども、その時が1番揉めますね…。
─ 宮部さんは元々何をされていた方なのですか?
宮部:僕は、学卒ですので2年間だけですけれども、精密機械が専門です。
─ やはり、製造系なんですね。
宮部:そうです。製造業に入って、最初は機械設計をやっていました。エンジニアだったのは10年ぐらいですかね。
─ 最近の企業さんの傾向はいかがですか?ちゃんと事業を練られていますか?それとも、軽はずみな感じ…ということもあるのでしょうか?
宮部:いやいや!
企業さんといっても様々ありますが、若い人がすごいですね、本当に。
我々が同じ年代の時では、事業とかあるいは経営ということを、こんなふうに考えたことがなかったな、というような。すごい人はすごいですよ。本当にすごいです。
─ 若い起業家の応募が増えているのですか?
宮部:ええ。今、我々の評価事業にはそういう方たちがたくさん来ています。
我々の時代は、卒業後はだいたいみんな就職先を1社で決めて、それも大手にという風潮だったのが、今は、理系でもマスターまで行きますし、コンサルに行ったり、あるいはスタートアップに行ったり…大企業志向の人が半分ぐらいしかいないんじゃないでしょうか。
1番すごいのは、卒業してすぐ自分でスタートアップしちゃうということです。
そういう人たちが、理系なのにマネジメントのことなんかもよく知っているんですから。
だから、「どうやって勉強しているんだろう」と不思議に思います。
本当に、大したものですよ。
清水:そうですね、それも最近の傾向かもしれません。 若くて、ベンチャー志向で。高学歴の方でも大企業を飛び出して自分で事業をやったり。 そういう方が評価事業自体に申し込む、というケースが増えてきているかもしれません。
─ そういう方たちは、どこでその社会を学んでいるのでしょうね。…本当にすごいことですね。
宮部:やっぱり、情報もネットもありますし、人脈や口コミもあるでしょうし。先週お邪魔した評価対象の企業さんは、スタートアップで、今年新卒の方でまだ1人だけなんですが、メンバーは東大の工学部から取ると言っていましたから。
─ 周りの環境もそうなっているんでしょうね。
森田:良くも悪くも、起業そのものがカジュアルになってきているんです。今、宮部が申し上げたように、僕らの時代は、「学校を出たら就職するもんだ」「事業を起こすなんてお前何考えているんだ」と、どちらかと言うとそういう風潮だったんですね。
─ 20年ほど前から言われていますが、「開業率を上げよう」という国の方策としては良いという事なのですね。実際に開業率は上がってきているのでしょうか?
森田:そうですね。国も都も起業促進をしていますので、変わってきていると思いますよ。
宮部:ものづくり系がどんどん減っているので、そこがうまく…すそ野の広い中小企業とコラボしながら、また新しい先を作ってくれればいいなと思うんですが。なかなか厳しいですけどもね。
─ そうですね。
─ 本郷さんはどのような立場で事業可能性評価に関わっているのですか?
清水:評価事業一番のベテランです。
宮部:ベテランと言いますか、この評価事業ができて何年目からいる方なんです。多分、もう10年ですか。
清水:元々は、統括マネージャーで、今は経営財務アドバイザーという立場で活動している方です。
─ 経営財務アドバイザーとは、具体的にどのようなことをされるのでしょうか?
本郷:従来から、事業可能性委員会で評価をして通った方に対しては、3年間の支援を行なっているんです。
ところが、3年で新しい事業が一本立ちできて事業利益が出せる企業というのは、正直、それほど多くはないんです。3年では短すぎる。だから、事業化計画だけではなく、もう少し長いスパンで、経営から財務まで一緒に見てあげて、トータルで5年間フォローしてあげましょうよ、という形で作ってもらった組織体制が経営財務になります。
それで、それは私がやるから統括マネージャーの方はこちらでやっていただいて…ということで、5年間でなんとか独り立ちさせる企業を増やそう、ということをやっています。
─ そうしますと、これまでお話しいただいた事業が前工程でしたら、経営財務というのは後工程になるということですね。
本郷:そうです。事業化支援から経営支援ということです。
宮部:なんとか立ち上がった企業さんでも、まだもっと行けるという可能性を見て支援をしたり、あるいは黒字化する、そういうことになります。
今、事業化とお話ししましたが、ここ1、2年は本当に短期間で売り上げが立つ企業さんが非常に増えました。以前は委員会を通った後の1年で売り上げが立つ企業というのは、半数もなかったですかね。
それが、今年なんかはかなり増えてきまして、そもそも事業に申し込みに来る企業様自体の平均値がかなり上がっている、というように感じています。
─ この10年を振り返っていただいて、企業さんというのはどのように変化なさってきたと思われますか?
本郷:10年前はまだ、ものづくり企業が6割から7割、サービス業などが3割ぐらいでしたが、それから数年でものづくり企業が減少、IT系が増加、となりました。
以前は何故、ものづくりが多かったかと言うと、実は東京都がやっている助成金というのも、ものづくりをやる方に対して、設備投資をするための助成金を出すというものだったりして、どちらかと言うと、サービス業よりもものづくり系に手厚かったんです。
ただ、時代と共に市場も変化したため、「サービスに関する助成金も出そう」というような形になって。
助成金の呼び方も、当初は国も「ものづくり」と言っていたのが、「ものづくりサービス」と言うようになり、それと同じ事が東京都でも出てきている。
とはいっても、サービス業と、ものづくりが同じようなパターンというのはなかなかやりにくいよね、企業さんにとっては申請書も書きにくいよね、ということで…。
そのような中で、我々の事業可能性評価事業が主体となって、「サービスのためのだけに助成金を作りましょう」と、我々が支援する企業さんの中で、なかなか助成金を出しにくいというところに「サービス業専門の分があるよ」というような形で、革新的サービス事業の助成金というのを2千万円作ってもらったのです。その形になってもう、4、5年経つかな。
─ なるほど。この10年間で最も印象に残った会社さんはありますか?
清水:難しい質問ですね。
本郷:我々も日々の中で様々な企業さんを見ていますが、それなりに組織体制ができて、数億売り上げるという、まずそこまで行くのは、通った企業さんの2割ぐらいなんです。
なので、トントンと数億のレベルになって、数十人を雇って会社の組織になる、ということをスッと自力でできた企業に関しては、後は経営的にどう回していけばいいか、ということで相談に乗ってあげればいいだけなのですが。
一方で、事業可能性評価は通ったけども、なかなか売り上げが伸びない、お客さんが増えない、この事業で本当にやっていけるのか、という企業さんが実はたくさんいらっしゃるので、「ここにだけあまり注力していても会社が駄目になるから、もう少し見方を変えましょう」といったことを、経営の立場である企業の社長さんの相談相手として話をしています。
─ そうすると、印象に残っているのは、どちらかというとご苦労なさっている方の会社さんになるのでしょうか?
本郷:そうですね。どちらかと言うと、そちらの方が気にはなります。
そういう意味では、我々は経営財務と言いながら、企業から見たら対価をもらって何かをやっているわけではなく、その社長さんの判断のサポートとか、頭の整理のための助言を与えている立場になるので。
本当は「自分だったらこうするな」と口を出したくなる企業さんも中にはいますが、我々アドバイザーという立場ではそれを言ってはいけないので。
─ なるほど。
─ この事業可能性評価へは、皆さん、どのようなことを目的に応募なさるのでしょうか?
清水:純粋に「助成金が欲しいから」という方もいらっしゃいますし、企業さんによって目的は様々です。
1番多いのは、新しい事業をやるにあたって、その資金を銀行で調達する際、銀行側にうまく事業の説明ができなくて、融資が引き出せないということがあるので、この事業可能性評価で評価を得て、事業計画をブラッシュアップして、第三者の誰にでも分かりやすく説明できるような事業計画を作って、自信を持って銀行の人に折衝する、のような目的で応募いただくことは多いです。
─ 融資をしてもらえるように、という目的もあるのですね。
清水:融資と言うより、その手前の…事業計画を銀行に出せないとか、銀行の人にうまく説明できないとか、そういうケースが多いかと思います。
純粋に、我々のような客観的な、第三者の公的なお墨付きが欲しい、ということで応募される方もいらっしゃいます。
このように「評価が欲しい」という方もいらっしゃれば、創業したばかりで相談する方が周りにいらっしゃらない場合は、「継続支援で担当者が付いて相談に乗ってくれるというのが嬉しいから申し込む」という企業さんもいらっしゃいますので、応募の目的は企業さんによってまちまちですね。
─ なるほど。
清水:近年、カジュアルな創業が増えている、という話が出ましたが、既にベンチャーキャピタルを入れているベンチャー企業さんは、いろいろな利害関係がある人ばかりが口を出してくるようになってくる、ということがあるんです。
VCの方からの助言は、そのVCが求めるような内容になってしまったり、周辺からのアドバイスは色の付いた内容が多くなってしまうことも少なくないので、そのような時に、我々のように利害なく話を聞いてくれる相手や、客観的に話を聞いてくれる相手が欲しい、「色がない意見を率直に聞いてみたい」と言われることが最近は多い気がします。
─ 全くもってそうですね。利害のないアドバイス、聞きたいですもの。
清水:そういった目的で委員会に来てくれる方というのは、すごくいいと思うんですよね。マネージャーもしかり、委員の先生は本当にその場で会うだけですし、資料だけを見た印象で質問をしていきますので、そこでどれだけ伝えられるか、そこでどんな意見が出るのか、というのは企業さんにとって参考になると思ってもらえたらいいな、という思いで運営をしています。
─ 私自身も、毎回それを目的にしていますので分かります。
清水:ありがとうございます。そういう風に言ってもらえると我々も嬉しいです。
─ ちょっと端的に言いますと、文句を付けてもらいたいんです。経営の立場になると、文句付けてくれる人がいなくなってしまうんです。
清水:多分そうなんでしょうね。ある程度いろいろやられて、経験されて、事業も成功されているとなると、余計に「文句」を言ってくれる人がいなくなるから、誰かに言って欲しいという方はやはりいらっしゃいます。
─ 誰かに茶々を入れてもらって、穴を埋めたい。 事業計画も、既に自分の頭の中には入っているので、今更作ることはなくなっているけども、ここに来たら作らされるじゃないですか。
清水:はい。ここに来たら作らされます。
─ つついてもらいたくて来る、事業計画を作らされるのを目的に来る、というのもあるのかもしれません。
本郷:基本的には、我々は会社の顧問のような存在で、経営に直接はタッチしないけど、社長の頭の中を整理するためのサポートの話し相手になっている、と。
本当は、いつも相談に乗ってくれるのが、資金を融資してくれている金融機関だけではなくて、お金に絡まないで、事業のことを相談に乗ってくれる人間がいるのがいいよね、という感じでいます。
─ そうですね。本当にそうだと思います。
委員会では最終的にプレゼンテーションする場があるんですよね。その時にどんな質問をされるか想像もつかないので、こちらもいろいろな準備をしますし…当然、準備していない質問もあるので、その場で考えて回答するわけですが。
終わったあとに、「ちょっと答えを間違えたかな」ということがあっても、ここは融資がどう、という話ではないので、何も起きない。
だからこそ、それを本番の練習のような感じで使って、実際のリアルの世界に飛び込んでいく、というのはあるでしょうね。
全く余談ですが、私が創業して2、3年目で、まだ世の中を何も分かっていない頃にこちらに来た2回目の時。その時の事業可能性評価がとにかく厳しくて。
先生がいっぱい座っていて、もう全部文句を言われるんです。「ひどい」と思ったのが記憶に残っています(笑)
清水:そんなだったんですか?
─ そうです(笑) ところが、次に、別の内容で事業可能性評価に来た時は、打って変わって優しくて。
清水:創業者でも評価されなかったケースももちろんありますし、大きな投資が必要で「本当にちょっとやめた方がいいんじゃないか」と、リスクの大きさによっては結構厳しめな意見が飛んだりします。「リスクをどこまで認識しているのか」と。
─ リスク、ですね。
清水:本当に、今止めないと誰も止められないんじゃないか、というケースでは「こういうリスクがありますよ」とか「こういうやり方でスタートしてみては」といったように、リスクを抑えた事業展開を提案したりすることもあります。
─ なるほど。「そのまま突き進むと、ものすごい危険な可能性があるぞ」ということなんですね。
清水:そのような計画を立てているけれど、本当にそれで行くの?とか、何か今ひとつ根拠が無かったり…。ですので、本当に厳しい意見が飛び交う時というのは、「本当にこのままで大丈夫なのかな」という時になります。
本郷:その当時、エグゼクティブさんを厳しくジャッジをした私が回答をしますと。
営業代行を展開しようとしていた業界のエリア的にも、しっかり安定して余力を持っているわけではない企業が多い中で、何かトラブルが発生した場合…。
─ 責任の所在はどこなのか、と。営業代行屋なのか、メーカーなのか、とすごく突っ込まれました。
本郷:そういう面での判断や法律などの絡みの中と、そういうことを含んで、一方でそれを代行としてやって本当に収益を確保できるのか、と不安を感じるというところで、僕等は厳しく話をしていったんです。
─ 事業を進めることに、本当に不安を感じているからあの時のようにかなり厳しい突っ込みになったんですね。
本郷:「そういうことをしっかりやらないと難しいよ」「これに深入りすると不安があるよ」でも、「事業の可能性としてはそういうことを踏まえてやっていけば、事業になるかもしれないよ」と。
─ どういうステージの企業だとしても、何か新しいことを考案した時には、改めて事業計画を作るという意味でも、皆さんからの突っ込みの強弱も含めて、そういう機会があるというのはいいですよね。
清水:そうですね。我々は、企業さんにとってすごくいい機会だと自負をしているんですけれども、いかんせん、知られていなかったりするので。
それに、目の前の忙しさを優先したり、目の前の営業のことしか見えてなかったりすると、「落ち着いて他の意見を聞いてみよう」という気持ちにならなかったりすると思うので、我々としては、いろいろな方に知ってもらって申し込んでもらえるように、日々PRを続けています。
─ 昔と比較すると、ご応募の数も増えていらっしゃるんですよね。 そちらのキャパシティーもあるのでは?
清水:マネージャーの人数も増えていますので、こちらがいっぱいいっぱいだから申し込みを一時停止するとかいうことはありませんよ。
─ ここで飛び交う意見の強弱で、企業にとって本当に危ない時のストッパーになったり…と今日の話で初めて知りました。 本当に、もっとみんな受ければいいのにな、と思いました。
清水:ぜひ、いろいろな方に伝えていただけると嬉しいですね。
─ うちもそうですが、十数年やっていると会社も安定してきますし、事業の進め方など大ざっぱなことは大体分かるんですよね。でも、そうい時に何か起こるじゃないですか。なので、一度受けて終わりにせず、もっと受けた方が会社にとってもいいのだろうなと感じます。
清水:そうですね。受けた方は皆さんそう言いますね。
会社が軌道に乗っている時は、節税などの対策に目が行きがちだけれど、そういう時にこそ、「次のことをやろう」とか、「他の方を入れてもっと事業を良くしていこう」と考えていかなければいけない、と。
一度受けた方は、そう言ってくれる方が多いです。
─ 常連の企業さんもいるのでしょうか?
本郷:数回受けていただいた企業さんはいますよ。 中には、トータルで十何年お付き合いする企業さんもいます。本来、3年しか支援期間がないのに、十何年もやっているという。
─ 1回でやめる方も多いのでしょうか?
清水:はい。支援が無くてもできるという方もいらっしゃいますし、 あとは、新規事業とは別に、1度受けた事業内容で枝葉でどんどん展開されていたりすると、それは新規事業とは言わないのでもう申し込まない、という方もいらっしゃるかもしれません。
─ なぜか、ここへの申し込みは、駆け出しの方が来るところというイメージがあるのですが、 少なくとも相談して話を聞いてもらうことにデメリットは無いですから、特にうちのような中小企業はもっと受けた方がいいんでしょうね。
森田:そうですね。ぜひそうやって申し込んでくれたら嬉しいですけど。
清水:意見を求めたり、評価を得て自信が欲しい等になると、やっぱりそういう方のニーズの方が多くて。
もう既に、1つ2つ事業で成功されている方というのは、我々の評価が無くてもそれなりに経験があるので、ご自身でやられようとする方が多いのかなと想像はしています。
ただ、もちろん、そのような方でも意見等を求めて申し込む方もいらっしゃいます。
─ 最後になりますが、今後、この事業可能性評価に一番応募していただきたい方というのは、どういう方、どういう企業なんでしょうか?
清水:新規事業にチャレンジされる意欲のある企業さんは大歓迎です。個人的には、一度も他の方からマイナス面を指摘されなかった人…ですと色々な気づきが得られる気がしますね。 恐らく、「こんな製品ができたんですけどどう思いますか?」と聞いて回っている時、大体目の前にいる相手というのは、いい答えしか言ってこないと思うんです。
─ そうですね、正直、自分自身に関係のないことですからね。
清水:そういう話や、アンケート、ニーズの調査しかり…、いろいろな調査をやっても、いい部分しか見ないで突き進まれる方が結構多いな、と思っているので。
もちろん、それで成功される方もいるのですが、そういう方ほど、一度このように立ち止まって、外部の人から、利害のない立場で「本当にどう思うのか」という客観的な意見を聞く、という場に来てもらえたらいいのかな、と思います。
─ 本当ですね。無料ですよね?
清水:はい、無料です。
無料ですし、「評価する」と言うと、結構構えてこられる方もいらっしゃるんですが、そんなことはないんです。
我々は本当に、私も含めマネージャーさん達みんな、相手に何かしらいいものを絶対に持って帰ってもらいたいと思っていますし、事業が成功してほしい、何か役に立ちたい、と本気で思っていますので。
もっと気軽に「ちょっと相談に行くか」という形で、気軽に相談できる場のように、近い距離で話ができるような立ち位置にしたいな、というのが私たちの思いです。
─ 本当にそう思います。どのような事業でも、何か商品があって、結局それを誰かに売らなきゃいけないわけなので、プレゼンテーションの場面はいくらでもあるんですが、普通お客さんが「いらないな」と思ったら、そこで「はい、終了」ですけども、こちらではいろいろな意見を言ってくれますもんね。
清水:そうですね。
─ プレゼンの練習にもなって、意見まで言ってくれる。そのまま進むと事業計画も見てくれて、大プレゼンの場も与えてくれる。
やはり、こういう機会をもっとうまく使うべきだなと思いました。
ぜひ、このまま事業者のお役に立っていただきたいな、と思っております。
本日は貴重なお話をありがとうございました
会社名: | 東京都中小企業振興公社 |
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HP: | https://www.tokyo-kosha.or.jp/ |
設立: | 昭和41年7月29日 |
代表者: | 理事長 保坂 政彦 |
事業内容: | 総合支援事業 |