─ サラリーマンを経てから起業されたとのことですが、なぜこの会社を始めようと思ったのですか?
諸橋:そうですね、起業したのは45歳になってすぐの頃です。
─ 起業するには、年齢的にそんなに早い方ではないですよね?
諸橋:一言で言うと、自分で事業をやってみたかったんです。
親が印刷関係の事業をしていたので、「サラリーマン」というのを知らなかったんですよ。
その影響が大きいと思うんですが、それこそ社会人になる前から薄っすらと「自分で事業する、そういうものだ。」と思っていました。
ただ、「サラリーマンとは、会社に入るとは、どんなものなのかな」とも思っていたので、社会人になってからはまず会社員になったんですよ。
─ 社会人になったら、ご自身で事業をやるというのは薄っすらと決めていた感じですか?
諸橋:そうですね、起業するというか…自分がずっとサラリーマンをやっているというイメージがあまり無かったですよね。
結果的に20数年間、サラリーマンとして長く勤めましたがね。
─ 最初はサラリーマンとはどんなものか?で入ったところから、なぜ、20数年も続けられたのですか?
諸橋:「自分で事業をする」という思いはずっと胸にありましたが、30代ぐらいまでは自信もあまりなかった。
組織の中で昇進・昇格していき順調に管理職になったんですが、一方で、サラリーマンの世界というのは、僕が知っていた自営業の世界とは当然違い、大きな組織特有の…おかしいなと思う部分が色々あったんですね。
─ 例えばどんなことに対してですか?
諸橋:社会人になってから徐々に分かってくることなのですが、立場が上になるほど楽になるんだなとか、二枚舌・三枚舌に近そうな人がいっぱいいるなとか。
もちろん、それが組織だし、それを大人の世界だって思っていたのですが、どこか違和感もありました。
でも30歳位の頃、色んな勉強会などを通じて自営業や起業家の人達と会って話をした時に、その方達の話は、やっぱり自分が元々持っていた仕事のやり方や考えのイメージにすごく近くてね。
ということは、自分が組織に抱いていた疑問はある意味正しかったんだなと思ったんですよ。
しかしね、実はサラリーマンといのも、すごく嫌だったわけでもないんですよ。
確かに組織への違和感は多々あったんですが、とは言え良い人も当然いるわけですよ。で、自分自身が管理職の立場になってみたら、結構面白くなってきて。
─ どういう部分が面白くなっていったのでしょうか?
諸橋:基本的に、年下の子ってなんか可愛いなと思う性格なんでね。マネージャーや管理職になったら、これは結構面白いな、と感じることが多々ありましたね。
─ 先ほど「組織でおかしいなと感じる部分に上の立場ほど楽になる」と「自身が上の立場になったら楽になって面白くなった」という話がありましたが、なんだか矛盾しているようにも聞こえるのですが…
諸橋:そうですね。実際、自分自身が上の立場(管理職)になったら裁量が広がったことで意思決定の範囲が広がり、結果的に仕事も楽に感じれ、面白くもなりました。
あとは、何ていうか…会社の中って部署と部署で対立があったり、色々と問題や変なことがいっぱいあるんですけど。でもね、皆、目をつぶるんですよ。私自身もそれが大人だと思って目をつぶってきたのですが、35歳位の頃に「やっぱり、それってよくないな」と思って。
その時に、自分が関わっていたプロジェクトでもおかしいなと感じる部分がたくさんあったので、「改革しなきゃいけない!」と立ち上がり…最終的には、社長に偉そうに答申したんです。
首を突っ込んだこの件は、人や組織に関する改革だったので面倒でもなんでもなく、むしろとても面白かったんですよ。
なので、その出来事が今の仕事に繋がった、というのは大きいと思います。
─ 首を突っ込まないようにしていたのに、突然社長に談判!随分と急展開ですね!
諸橋:たまたまそういう機会が1つあったということもありますが、会社に「バーチャルハリウッド」という、社内提案制度があったというのも大きいです。
─ 社内ベンチャーの様な?バーチャルハリウッドですか…面白い制度ですね。
諸橋:ハリウッドの監督やプロデューサーになったように、自分で好きに人を集めて、会社やお客さんのためになるような、お客さんに感動してもらえるものならば何でも自由に、と、かなり広域ですが、1年間の中でプロジェクトを組んで提案ができるという制度があったんです。
年間で約50位の支部が手を挙げるのですが、当然、仕事をしながらの取り組みなので、途中で挫折しちゃう人も多くて。でも、いざ自分がそれをやってみたら、これは面白いなと!自分の中にあった起業への熱い思いがちょっと目覚めちゃったりして。
それで、30代後半位にその社内起業制度に申し込んで、その後自分のプロジェクトが採用されたんですが、社内的な事情で、その制度自体がなくなってしまったんです…。
「起業目前だったのに、またサラリーマンに戻んのかよ」のような気持ちが、自分の中で悶々としだしちゃったんですよね。
それで、特別な技術もスキルもない自分が、そこからどんな仕事で独立できるのかなって、色々な人に相談しながら、その機会を伺っていたんです。
─ 例えば、どんな方にご相談されたんですか?
諸橋:その時、たまたま大学院に通っていまして、「ソーシャル・キャピタル」という起業における人脈みたいなものってどうなの?という事を論文で調べていたんです。上場企業の社長も6人か7人は会いましたかね。そんな時に、ちょっと話を聞いてみたりして。
40過ぎては短い期間でしたが、当時教育事業に携わっていたので「これで独立しよう」と思い、準備を進めて、その後、退職して会社を立ち上げたのが45歳になります。
─ 起業に対して周りの方の反応はいかがでしたか?
諸橋:「どんどんやれ」という雰囲気ではありませんでしたが、家族、周辺の人、近い人も含めて、僕の起業はあまり意外じゃなかったんだと思います。
─ 20代からその思いを持たれていたから、きっと端々に起業に関するお話が出ていたんでしょうね。
諸橋:そうですね。逆にちょっと遅かったのでは?という感じでもありました。
実際に会社を辞めてみたら、何て言いますか、やっと自分らしくいられるようになったというか。
そういう感覚がありました。
─ ご自身が好きな「教育」という部分には、起業をされてから携わるようになったんですよね。
諸橋:教育が大好きというよりは、面白いなと感じていました。
起業当初は、会社の先輩と大学院時代の同級生の3人でスタートし、1人とは仕事に対する考え方が大きく異なったため、すぐに決裂してしまいましたが、もう1人とは割と最近まで一緒に事業をやっていました。
─ 仕事に対する考え方とは、どのように違ったのでしょうか?
諸橋:その方は、割とクローズな考え方を持っていて、例えば一緒に関わってくれるパートナー講習であっても、自分のテキストを見せるのをすごく嫌がる人だったんですね。
自分のノウハウを守りたいと。過度にそういうのが強い人だったんです。
私としては、ノウハウを見せた方が、最終的にお客さんにとって良いもの提供できると思っていたので、それこそ序盤から考え方が全く合いませんでしたよ。
ただね、考え方は全く合わなかったけれども、その人が持っていたものは、今の自分や会社に活きているものもあるんですよ。
独立すると、どんなものでも役に立つと思うんですよね。嫌なことでも学びはあるじゃないですか。経験があるから「次は○○するのをやめよう」と事前に手を打つこともできる。だから、その出会いも経験も、私にとっては必要だったんです。
─御社の船旅は、どのように進まれているのでしょう?
諸橋:初年度こそ赤字でしたが、2年目以降は利益が出ていて…この数年は5倍に。
これからは、新しいことをやらなきゃいけないと思っているので、今、色々と新しいことを手掛けているところです。
─なるほど。今の社長の原動力は、どこにあるのでしょうか?
諸橋:そうですね。
もちろん自分自身の欲みたいなものも、もちろんありますけど、それ以外で言うとそうですね…1つは社員にとって良い会社、社員を幸せにするような会社にしたいなっていう思いがありますね。
最初の頃は「そんなのは綺麗事だ」なんて思っていましたが、なんていうか、やっぱり会社をやっていくとね、普通に純粋にそう思いますよ。本当に。
─なるほど。今の社長の原動力は、そこにあるのでしょうね。わかります。
諸橋:次の世代になにか残したい、そういう思いはあります。私の原動力と聞かれたらそれぐらいかな。
だんだんと、純粋に「誰かになんか幸せになってもらいたいな」って思うようになってきていますよ。
─キャラクター、能力、性格、色々あると思いますが、どういう社員さんと一緒にお仕事していきたいですか?
諸橋:特にはありませんが、一言で言ったら、「イヤな奴とは付き合いたくない」ということだけですかね。例えば、人に意地悪する人とか、批判が多い人とか。
社員にも、「たとえお客さんであっても、嫌な人とは付き合わなくていいよ」と言っているんです。もちろん仕事はちゃんとしなきゃいけない。だけど、必要以上に嫌な人に関しては、仕事だから…と別に付き合わなくていいよと。
─いい方達とのお付き合いというのは、おのずと選別しているんですよね。
会社が順調に成長されているとのことですが、今後は、規模をもっと大きくしていきたいお考えですか?それとも、今の社員たちをもっと幸せに…でしょうか?
諸橋:そうですね。
ただ、人数を増やしたいという欲はあんまりないですね。
ある程度組織が大きくなってくると、色々と異分子も混じってくるじゃないですか、どうしても。私としては、そういうのはあまりハッピーじゃないな、と思っているので、1人あたりの生産性を上げる方が興味あります。
あとは、弊社が今現在やっている、教育と人材に関するソリューションやマーケティングリサーチの事業というのは、かなり個人的なところが多いので、社員の人数を増やしたからといって、規模が掛け算になるような仕事ではないんですよ。
─御社の強みが、最も喜ばれそうな会社というのは、どのような課題を抱えているところだと思いますか?
諸橋:基本的に、どこの組織でも、組織の問題も人の問題も抱えているんですね。
なので、どのような会社というのは、本当にケースバイケースなので何とも言えませんが。
弊社は、研修事業が比較的大きな会社さんが中心になるのですが、中堅企業向けには、人材事業の中で人材紹介や顧問紹介の事業なども始めたり…と、ターゲットは様々なんです。
─13年で培った、御社の最もコアなスキルは何でしょうか?
諸橋:コアなスキルですか。なかなか難しい質問ですが、そうですね。
世の中に、教育と人材紹介の会社はたくさんあると思いますが、教育・人材の両方をやっている会社というのは、意外と少ないのではないかと思います。
例えば、人事がお客さんだった場合、企業の中には、人材と教育の両方の課題があるんですが、その両方に対応できるというのは、当社の大きな強みだと思います。
─嬉しい、面白いと感じる瞬間はどのような時ですか?
諸橋:例えば研修で、新しい試みに「ああ、これは結構ウケるかもしれない」って感じることってあるんです。もちろん、その仮説が外れることも多いんですけど、うまくいった時と言うのは、やっぱり世の中に受け入れられるというか、お客さんが評価してくれる時で、そういうのは単純に面白いですし、嬉しいと感じる瞬間です。
前の会社はメーカーで、モノ作りが基本でしたので、やっぱり技術者の人のための会社だなってすごく思ったんです。だからそういう人達にとってはすごくいいけれど、それ以外のコーポレートにとっては、結局人が作ったり考えたことなので、後で思うと、それは自分としてはやっぱり向いていなかったように思います。
─自分で考え、自分で探し、自分で提供し、喜んでもらうということをしたかった、ということですか?
諸橋:私は、それが面白かったんです。やっぱり全然違うなって思いましたね。
─例えば、そのような経験がなく、いきなり22歳で起業していたとしたら、やはりそれは全く違ったものなのでしょうか?
諸橋:ええ。違ったものになったでしょうね。
でも、当然若いっていうのもありますし、22歳で起業していた方が可能性は広がりますし。
もしも、過去に戻れるとしたら、恐らくそんなに長くサラリーマンはやらないですもん。40代でサラリーマンを辞める人って、世の中で多分一番少ないと思いますよ。
─そうでしょうね。辞めるのなら大半の方達はもう少し手前か、もしくはもっと後の方でしょうね。
諸橋:その通りですよ。でも、大企業で管理職をやったというその経験は、今の仕事に大きく活きています。これまでの経験は間違いなく自分にとってプラスになっています。
─本当に、レアケースですよね。
若かりし頃に、ずっと持っていた思いが失われなかった。本当に素晴らしいですね。
諸橋:野田智義さんというINSEADの教授や、若手世代のリーダー層育成を目指す大学院大学至善館の理事長をやられている方がいるんですが、「日本には不真面目な優等生が多くて、真面目な不良が少なすぎる」というようなことを仰っているんです。ここでいう「不真面目な優等生」というのは大企業の社員を指すのですが、確かにそうだなと思うんですよね。
大企業には、優秀な人材が沢山入るのは間違いないとは思うんですが、能力を活かされないで定年を迎えちゃう。誰が悪いということではありませんが、結果的に、多くの人材を殺しちゃう。
結局は、その人に、責任を与えられるかどうかだと思うんですよ。
大企業の場合はいくら優秀な人だとしても、20代で管理職にはなれないじゃないですか。
早くて35歳位、30代後半位が多いですよね。
結局、責任を与えられないと仕事のしようがないですよね、その範囲でしかできないから。
例外もあるでしょうけども、大企業に関してはほぼないと思います。
─そこに対して、御社だったらどういう力を与えられそうですか?
諸橋:世の中が変わってきたので、企業も変化してきているのかもしれませんが、本質的なところは、相手の経営がどう考えるかってことによるので、弊社のできることは限られます。
ただ、「会社を変えたいんだ」「優秀な人はたくさんいるが、ちゃんとパフォーマンスを活かせていない、抜本的に変えたいんだ」と、社長が本当に「変えたい」と思うのであれば変わるんじゃないですかね。本当に思うのであれば。
大企業のサラリーマン社長では、結局社長と言っても、中々自分一人では会社を動かせないんですよ。現実は難しい。
何か案件があったら、これは誰々に確認するとかね。あとは不平等なことができないと思う会社も多いので、こっちの部門立てたらこっちの部門がどうだって、そんなことを言い出したら、もう、何にも変えられない。会社を改革だなんてできないです。
もちろん、サラリーマン経営者でも立派な人はたくさんいますが。ただ、今の社会で、比較的元気な会社を見るとオーナー企業が多いですね。
─サラリーマン経営者の、本当に重厚長大なところに対して、御社の方でプチっと針を刺すようなことは何かできそうですか?
諸橋:実際、それほどはできていませんが、どうしたら良いのかということを一緒に考えたいとは思います。
余程会社が傾いた時には、まだ手を打ちやすいのですが、そうなると当然、資金面も厳しくなっているので投資ができなくなっちゃう。なので、ある程度余力があるうちに改革をしないと、やっぱり会社がもたないと思うんです。
─本当にそうですね。
そのような会社さんにこそ、御社の強みが発揮されるのだと思います。
本日は貴重なお話をありがとうございました。
会社名: | インテグラス株式会社 |
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HP: | https://www.integrus.co.jp/ |
設立年月日: | 2006年10月1日 |
代表者: | 代表取締役 諸橋 清貴 |
事業内容: | 人材組織開発・人材紹介・ダイレクトマーケティング支援 |